村で一番大きい家。村長の家だ。・・・というかノアの家でもある。

ノアとノアのお父さん、つまり村長はあまり仲が良くない。

そのせい、もあって彼は自分の父を「村長」と呼んでいた。

以前は違った。

ノアのお父さんはとても優しくリョウの事も自分の息子のように接してくれていたのだ。

ノアもそんな父がとても好きだったし、誇りにしていた。

いつも間にか変わってしまった・・・。

 

リョウがノアの家に着くとノアの父村長の姿が目に入る。村長は軽く眉をひそめるとリョウを中に入るよううながした。

彼は2年前の事件以来、リョウの事をあまり快く思っていない。

彼の態度が以前とは正反対に冷たくなってしまったのもこの頃だった。

彼が自分の事を快く思っていないことはリョウ自身も知っていた。

だからリョウは自分の家を村の外れまで移したのだ。

「・・およびですか。村長さん。」

リョウは丁寧に頭を下げる。隣でノアが「そんな風にしなくていいんだよ!」

と小声で言って、リョウの腕を小突いた。

「リョウか・・久しぶりだな。さて、君をここに呼んだのは他でもない。先ほどの

地震のことは知っているね?」

村長はかなり気が立っているらしく早口で言った。

「原因は分かるかね? ・・・君の専門分野だろう?」

「・・はい。」

確かに地理学と考古学はリョウの専門分野・・・というよりは、父の専門分野だった。

リョウの父は考古学の博士だった。よく遺跡発掘の為にいろいろな土地に行き、その内に

地形についても詳しくなったのだという。

リョウもそんな父の背中を見て育ったので
自然と考古学が好きになっていった。

もちろん、この星の地形についても詳しい。

父は2年前発掘の途中に事故に会い亡くなったが、リョウの考古学、地理学が好きな気持ちは変わらなかった。

でも・・今回のことについては彼には説明出来なかった。普通の地震とは違うからだ・・。

というか、これが地震かどうかも分からなかった。

揺れを感じたのは人間だけだから。

リョウが困って黙っていると、背後から声がかかった。

 

「これは、地震じゃぁないよ。時なのさ。」

彼が振り向くと、そこには白髪頭の老婆がいた。

年齢はおそらく80歳前後、真っ白いローブを着て胸元を金色のブローチで止めている。

ブローチの形はフクロウで赤いルビーの目をした、
かなりの細工物だ。

白髪頭を後ろで一つにまとめ、瞳はグリーン。背筋を伸ばして立つ様は

とても高貴に見えた。

こんな人をリョウは村で見たことがない。

それは村長も同じだったらしい。

勢いよく椅子から立ち上がると大声を上げた。

「なんだ、あんたは!! どこから入った!?」

しかし老婆は村長を無視し、まっすぐにリョウを見て言った。

「大地が教えてくれているんだよ。もう、時だってね。まもなく、この世界は争いに支配されますよ・・・てね。」

「・・争い?」

リョウが驚いて声を上げると老婆はにっこりと笑った。

「そう、戦争だよ。大変なことになる。たくさんの人が死ぬことになるかもね」

「・・・戦争、そんな!いったいどこの国が!?」

「人間同士だと思っているのかい?それは違うよ。」

  ・・え?とリョウは言葉を失った。

人間同士の戦争じゃない・・・じゃあ一体何と何の戦争だというのか。

 

「戦争という表現も変だね。勝敗は明らかなんだから・・。まもなく、人間は消滅するよ。」

頭が真っ白になった。いったいこの人は何を言っているんだろう・・・。

リョウには老婆の言った言葉の意味が理解できなかった。

「ま、待って!! 話が分からないよ!お婆さん、何を言ってるの?」

「何をって、事実を言っただけだよ。さて、前置きはこのくらい。私がここに来た目的はただ一つ。」

老婆は相変わらずにこにこした表情を崩さずに言った。

老婆の瞳が真っ直ぐにリョウを射る。

「あんたを迎えに来たんだよ。リョウ・コルトットさん。」

 

 

これが、リョウの運命の始まりだった。

 

 

 

           第一章〜予兆〜  Fin